■ 【自身喪失/心淵-エンカウント-】 ■




 
    ―――統合する記憶の負荷に耐え切れず―――
 ―――そうなる様に仕向ける他者の法則に抗いきれず―――
―――少女の記憶と過去はこの場所を最後に失う事となる―――
  ―――これは転生の儀式、■■へと送り込む為の―――
 
 
 
 
  【自分自身の失われた“少女の記憶”】
 
 ――あぁ、私は、ここで死ぬんだ。
 勝負を…生死を掛けたゲームに■■したから…■■したのに…。
 死んで、何処とも知れぬ白い闇の中に消えるんだ。
 何故、こんな事になったのか………私は走馬灯の様に思い出していた。
 
 
 
 
  【自分自身の失われる“走馬灯の記録”】
 
 始めは、遊んでいただけだったと思う。
 流行の服を着て、流行のゲームをやって……楽しく、時に冷めた目で自分を見ながら。
 
 楽しかった、けど、私はソレを楽しいと感じていない部分が確かに存在していた。
 こんな、学生ではないもっと別の“役割”が私には在ったから。
 
 “役割”…そう“電脳凶手/ブレインハッカー”とか“崩壊させる者/マインドブレイカー”とか呼ばれる者としての自分。
 自分は冗談めかして“精霊を操るもの/パケモンマスター”とか言っていた気がする。
 
 私にとって、それは難易度の高いゲーム。
 扱う駒は“パケットモンスター”と呼ばれる人工精霊の玩具。
 何故“パケモン”なのか…の理由は簡単だ。
 誰も、このようなものでソレを成す事なんて考えられないだろうから。
 手軽に手に入る子供の玩具が、まさか人の精神を狩る凶手になろうとは思いもしないだろう。
 あぁ、白状しよう。 私はこの力で何人もの人を葬って着た。
 良い事だとは思わなかった、悪い事とも思わなかった。
 仕事だと、ゲームだと、そう思っていた。
 
 ―――…■■■■…をターゲットとするまでは。
 
 何故■■■■を狙う事に成ったのか、ソレは解らない。
 けれど、狙ってしまったのは事実だった。

 捜索と検索……足取りを追い―――…ついにターゲットを追い詰めた。
 幾多の電脳防壁、物理的にも隠密した本体を追い詰めるのに結構な時間がかかった。
 
 追い詰めた場所は白い風が身を切る冷たい闇の中。
 ――吹雪が吹き荒れる雪原。 何故この場所なのか? 何故……。
 
「漸く、追い詰めた」
「――■■■■が、良く追って来れたわね」
 
 …何故? 奇妙な既視感…何故…何故、彼女は――私と同じパケットモンスターを使っている――?
 
「ま、この戦いも今回で最後…勝った方がベースになって新たな存在に昇華できる」
 
 言っている意味が解らない――。
 私より幼い…そう“その頃の自分と同じ姿形の少女が言っている事が解らない”
 
「さ、始めましょう? ルールは言わなくても理解できるわね?」
 
 同じ動作でパケモンを取り出す私達。
 そして―――目撃者の無い幻想の戦いが始まった。
 
 手持ちのパケモンは6……シングルバトルで相手のパケモンを全て倒したら勝利――。
 
  
  
  
  
  【居るはずの無い観測者“淡々と書かれる記録”】
 
 2人の少女が戦いを始めた。
 この時、この瞬間の為に…この後に起こり得る現象の為に、今まで費やしてきた。
 どちらが残っても問題は無い、どちらともが相打ちでも問題はない。
 ようは…いま、この場所でこの戦いが起こればそれで良いのだ。
 “人工精霊”と言う存在を“高位精霊”にまで位を押し上げる異能を持った2人の戦いが。
 あぁ、押し上げると言うのは御幣がある…正確には“書き換える”と言おうか。
 少女らが扱う“人工精霊”は精神や電脳、電子の海を破壊し時に直すだけでなく…。
 現実空間にその作用を及ぼし、物理的な破壊力を持つに至る。
 もっとも、常時物理的な作用を及ぼすのは不可能なのか、通常は精神と電脳に作用するに留まっているのが現状だ。
 それでも、たとえ他の“バサラ/異能者”や“マヤカシ/霊能者”、“妖怪・魔物/アヤカシ”に届かなくても、
 それら以上の存在を使役し書き換え生み出せる存在を作り出せれば良い。
 人工精霊で高位精霊に成れるのだ、これを…現実の“能力者”に適用出来れば…“神”を作り出す事も不可能ではないだろう。
 
 2人の■■が始めに出した“精霊”の名は彼女らが『凍魔-Thorn-』と名づけた氷の悪魔。
 素晴らしい、素晴らしい…!
 
 2体の『凍魔-Thorn-』は場の特性を生かし、その力を増大させる。
 氷の刃と氷の吐息、氷の翼に氷の角…存在が増し――激突する。
 吹雪の中で繰り広げられる氷の舞踏。
 巧みに『凍魔-Thorn-』を操る2人の■■は、片方は驚愕、片方は余裕を持って相対する。
 …あぁ、決着が付いた。
 最後まで同じタイミングで繰り出された技に2体の『凍魔-Thorn-』は同時に倒れ消える。
 
 同程度まで育ったか…だが、年齢が低い分、彼女の方に成長の可能性がある。
 もう片方は…補う為の経験があるだろう。
 
 『雷獣-Tonitus-』が閃光を発し、吹雪を溶かし、雪原を抉る。
 『焔魔-Flamma-』が雪原の大地を顕にさせ、その一帯――そう、天の雲さえも焼き、吹雪を止ませる。
 光刺す両者のフィールドに現れるのは『風霊-Aiolos-』巻き起こす風は強力な竜巻を思わせる。
 彼女達の持ち駒は…後2――大方『収鬼-Harvest-』は相手の電脳の防壁で焼き切れたのだろう。

 1体、また1体と…“相打つ”才能が経験を経験が才能を埋めきった結果の“相打ち”。
 
 そして――最後の彼女達の切り札が現れる。
 
 名は『神魔-Lucifer-』――明けの明星、傲慢の堕天使――3対の翼を持つ“神にもっとも近い存在”
 
 姿は神々しく見る者を魅了する。
 
 少女らは解っているのだろう――最大の技でこの決着が付くと。
 
 「『――――穿つのはその閃光―――』」
                   「『―――吹き荒れるは数多の旋風――――』」
        
         「『纏うのは全天の極光―――解き放たれよ!』」
         
 瞬間、全てが反転した。
 
 吹雪を超える吹雪、竜巻を超えた台風、自然現象を超えた自然現象が激突する。
 
 光りが影を消し、影が色濃く内に現れる。
 
 ―――世界が―――。
 
               少女はこの時、己を失った。
               
                           To be continued …NEXT “SS:自信喪失/遭遇-ミスト-”






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